僕は神奈川生まれ神奈川育ちでして、高校時代は県立高校で野球をやっていました。
県立高校の中ではそこそこやる方でしたが、あくまで県立高同士の中ではまあまあ強いというレベルでした。
神奈川の高校野球は私立高校が絶対的な強者です。
僕がいた3年間でも、強豪校と言われる私立の学校に勝ったことはありませんでした。
神奈川県は戦後県立高校が甲子園にも春の選抜にも出場したことはありません。(公立校という括りでは横浜市立商業(Y高)が80年代後半~90年代前半にかけて何度か出場している)
僕達も「打倒私立」「雑草魂」をかかげ、私立を倒そうとしていましたが、やはりチームの総力ではどうしてもかないませんでした。
神奈川の私立高校がなぜ強いか?野球に対する『覚悟』が違う
県内外から優秀な選手を獲得しているというのは周知の事実ですが、それにプラスして専用グランドを始めとする練習環境や指導者のレベルの高さもあるでしょう。
それ故に「なおさらそんな奴らには負けたくねー!」と思っていましたが、強いのはただ環境に恵まれているからだけではないということを大学で知りました。
僕は大学でも硬式野球をやっていたのですが、そこそこ強い学校だったので甲子園出場経験者などもおり、いわゆる『私立上がり』が多いチームでした。
そこで私立出身の先輩や同期の高校時代の話を聞いていたら、なるほど野球に対する姿勢がそもそも全然違うなというエピソードをたくさん聞きました。
2つ隣の街にある学校と練習試合をして、負けてランバック(走って帰る)してそのまま自分の学校でまた練習したとか、
一日練習が終わってダウンのランニングをしていたら監督に声が小さいと言われ、今日の練習メニューをもう一度始めから全部やったとか(終わったのは0時過ぎ)、
自主練で手とバットをテーピングでグルグル巻きにして離れようにして、奇声を上げながら深夜までティーをやっているヤツがいたとか、そんな話ばっかり聞きました。
自分の高校時代を思い返すと、そこまでまさに血反吐を吐きながら練習しているようなヤツは自分も含めいませんでした。
当時は本気で甲子園に行きたいと思って一生懸命練習している「つもり」でしたが、本当に甲子園に行くようなチームの奴らは、環境の前に努力の質も量も覚悟も全然違うんだと初めて気付かされました。
僕の先輩で横浜出身であの名門・明徳義塾に野球留学で入部した人がいましたが、まさに地獄のような3年間だったと言っていました。
まず練習のきつさがハンパじゃない。先輩にはボッコボコにされる。同期は半数が大阪出身の奴らで、こいつらが気が強いし幅利かせるしでそいつらにナメられないよう四六時中バチバチしてたしで、気の休まる時がなかったそうです。
ある時は練習の前に先輩に胸をボコボコに殴られて胸から出血し、ユニフォームに血が滲んだままアップのランニングをしたこともあったそうです。
明徳義塾は山の上にグランドと寮があるそうなのですが、1年の頃は毎日のように、夜に山の上から下に広がる街の明かりを眺めながら帰りたいと仲の良い同期と泣いていたそうです。
そんな地獄を見てきたヤツらが公立のしょせん『部活』レベルで野球をやっているヤツらに負けるはずがないし、負けられないんです。
ちなみに上下関係や暴力については僕は否定的で、この話はまた別に書こうと思っていますが、それにしたって相当な覚悟を持って野球に取り組んでいることは確かです。
そもそも中学時代凄かった選手達が全国から集められ、整った環境で鬼のようにストイックに練習に取り組む。
そりゃあせいぜい近所の中学校の部活でレギュラーだった選手が集まる程度の選手層で、グランドも他の部活と共用なんていうところが多い公立校では勝ち目がないわけです。
ただし僕個人としては専用グランドや寮といった環境面より、選手のストイックさという野球に対する姿勢が一番の私立と公立の差だと思っています。
どうしたら神奈川の公立校が強くなるの?私立との技術的な差
僕が高校野球をやっていた10年前より、神奈川ではかなりコンスタントに公立校が活躍するようになってきました。
2016年、2015年の夏大会は残念ながら公立校がベスト8に残ることはありませんでしたが、2014年に県立相模原、2013年は弥栄高校が私立を倒してベスト8入りを果たしています。
ところで少し話は逸れますが、ここ10年くらいで高校野球のレベルは全体的にかなり上がりましたよね。
ノーシードの公立校のピッチャーでも割と簡単に140km/h超の速球を投げるし、甲子園クラスでは150km/h超えもそこまで珍しくなくなりました。
最近の学生野球のことは詳しくわかりませんが、近代的なトレーニング法が導入され効率的な練習方法を確立しているのではないかと思います。
根性論の時代ではなくなりましたね、良いことです。
さて話を戻してどうしたら公立校が強くなるか、私立を倒して甲子園に行けるかという話ですが、ここでは上に挙げたメンタル面や環境面の違いではなく、技術面の違いを比較してみたいと思います。
練習量の差
これを言ったら元も子もない気がしますが、まず圧倒的な練習量の違い。神奈川における根本的な私立と公立の違いはここにあると僕は思っています。
それは全体練習自体の練習量の差ももちろんありますが、それよりも選手個人がそれまで積み上げてきた練習量の差です。
練習は量をこなせば良いものではないことは確かですが、それは練習内容によって異なってくるというのが僕の持論です。
例えば投内連携(投手と内野のサインプレー)やシードバッティング(試合形式のバッティング練習)などはアホみたいにやってもしょうがないので、量よりも質でやるべきだと思います。(とはいえ私立の練習量の方が圧倒的だけど)
しかしこれらは言うなれば応用レベルの練習であり、質を高めるにはまず『捕る』『投げる』『打つ』『走る』の基礎的な動きが高いレベルでこなせないとやる意味があまりありません。
そしてこの『捕る』『投げる』『打つ』『走る』の動作こそ、量をこなすほど差がついてくる要素なのです。
具体的には
捕る・・・野手の球際の強さや捕手が後逸しない技術
投げる・・・投手の球速、野手の肩の強さ
打つ・・・打球の速さ、つまりスイングスピード
走る・・・ボールに追いつく俊敏さ、投手のクセや間を読める洞察力を含めた足の速さ
といった技術のことです。
私立の選手はこの基礎部分を小学校、中学校の段階で相当な量をこなしてきています。
例えば数値で表すとしたら、高校入学時点で公立校の選手が10だとしたら私立の選手はすでに50くらいの量をこなしてきているくらいの差があります。
高校時代に有名シニア出身で強豪私立からも声がかかっていた、すごい打球を放つ1つ上の先輩がいました。
僕の同期のヤツがその先輩にバッティングの教えを乞いに行ったのですが、「お前と俺とじゃ振ってきたバットの数が違う。まずその差を埋めるくらいバットを振ってこないと技術的なことを教えても意味がない」と言われたそうです。
その話を聞いたときはイヤミな人だなと思いましたが、今になってみればその意味がわかる気がします。
これらの基礎部分は量がものを言います。それぞれに理論はありますが、それより何より一定以上の量をこなさないとその理論を理解できる領域に辿り着けません。
僕は根性論には否定的ですが、これについてはマジで数をこなすしか上達の道はないと思います。
僕はずっと投手をやっていて、左投げだったことと高校時代でMAX130キロ後半というそこそこの速球を投げていたことが評価されて大学推薦をもらいました。
ただ高校までの僕は本当に投げることしかしてこなかったので、フィールディングも足の速さもバッティングもカスみたいなレベルでした。
でも大学でアホみたいに走らされ、浴びるほどノックを受けることで、大学でも通用する足の速さとフィールディングを手に入れました。
大学では基本的に投手は打席に立たないのでバットを振ることはないのですが、練習のあいまに先輩にバッティングを教えてもらって上達しました。(監督・コーチにバレたら殺されてた。笑)
これらの経験で個人のスキルの大半は「量より質とか言う前に量をこなせば身に付く」ということを実感しました。
質が大事になってくるのは大学以上のレベルに達した時だと思います。
スイングスピードの差
上でも挙げた項目ですが、これは高校野球を見ていて一番違いが分かりやすいポイントです。
シードを取るような公立校を除いて、ほとんどの公立校の選手はバットのスイングが貧弱です。
これは強豪対普通の公立校の試合なんかで、両者の攻撃を見ていると顕著に違いが分かると思います。
硬式用のバットというのはかなり重く、僕なんかも入学当初の頃はフルスイングしてもヘニャヘニャの軌道を描いていたものでした。
公立校の選手は3年になっても往々にしてそれに近いスイングをしています。(僕もそうでした・・・笑)
だから一生懸命バットを振ってるのに内野の頭を超えるのがやっとみたいな打球ばっかりです。
ぶっちゃけシードを取れない、もしくは第三シードくらいの私立との実力差ってそこまでありません。
エースだってそんなめちゃくちゃ良い球投げるわけでもないし、守備だってそんな上手いワケじゃない。
ただスイングが違います。この差で勝てないんです。
スイングが速いということはそれだけ打球が速いということです。速い打球は強襲ヒットやエラー、長打など出塁出来る色んな可能性を含んでいます。
打球が速いにこしたことはないんです。
それともう一つのメリットは、スイングスピードが速いということはまず速球に対応出来ます。120キロそこらではなく135キロ超の速球ですね。
そしてバットを振る速度が速いのでギリギリまでボールを見れる、つまり変化球か速球か見極めてから振り出せるようになります。
これが出来ないから130~135キロでスライダーやカーブでカウントが取れるレベルのピッチャーが出てくると完全にお手上げで完封をくらってしまうんですよね。
逆に言えば投手も守備もイマイチでも、1番から9番までバットが振り切れていれば上記レベルの私立を倒せる可能性は多いにあります。
それ以上のレベル、ましてや神奈川最高峰の横浜や東海大相模レベルになるとこの要素だけで勝つことはまず無理でしょうけども。
これにプラスして逆打ちやカットの技術なんかも差ではありますが、それらも一定以上のスイングスピードがあるから為せる技なのでつまりはスイングスピードの差ということで割愛します。
戦術
これは選手ではどうしようもない部分なので変えようがありませんが、監督の戦術の差というものはやはりあります。
名将と言われる監督達は、総じて試合の流れを作る、または読むのに長けているなと試合を観ていて感じます。
僕が観ていて決定的に違うなと思うのは、攻撃時の攻めの姿勢。
エンドランなど失敗すればランナーがアウトになる、リスクのあるサインを恐れることなく使ってくるし、盗塁もバンバンさせますよね。
サインの成否に関わらず常に相手にプレッシャーをかけている。でも無謀なわけではなく投手や守備のリズムや試合自体の流れを見ながらそういったサインを出しているように感じます。
それがエラーやピッチャーの失投を誘うのでしょうね。
野球はお互いのレベルが拮抗すれば結局のところメンタルで左右されるスポーツなので、いかにプレッシャーをかけるかというのは大事なことなんじゃないかと思います。
対して弱小校ほどランナーを送りバントで得点圏に運ぶという保守的で安易な方法を取ります。
セオリー通りの攻め方でランナーを進めても、相手はプレッシャーに感じません。次の策がある程度想像出来ますからね。
何か仕掛けてくる、そういう得体の知れない恐怖感を植え付けられるのが戦術に優れた監督と言えるかもしれません。
一番の差は投手力。140キロ台が2人いないと厳しい
毎年神奈川の県予選を観ていて思うのは、公立にしろ私立にしろ神奈川で甲子園に出るには140キロ以上の球速を持つピッチャーが最低限2人はいないと厳しいということです。
甲子園で決勝まで勝ち進むことも考えれば3人は欲しいところでしょう。
横浜でも東海大相模でも、140キロ台を投げれるピッチャーが毎年少なくとも2人はいます。
140キロ以上という表現をしていますが、ここで一番大事なことは球速ではなく『プロが注目するような他の高校なら絶対的なエースクラスのピッチャー』が2人は必要だということです。
その条件を満たす内の1つが140キロ以上であるということです。
もっと具体的に言えばストレートは140キロ以上、変化球は3種類以上あり、どの球種でもカウントが取れ、決め球にも出来る。先発完投するスタミナがありフィールディングも問題なく、かつ万が一に備えてピッチャー以外のポジションも守ることが出来るレベルの投手です。
そんな完璧超人がホイホイいるか!と怒りを覚えるレベルですが、話を盛ってるわけでもなんでもなく、県予選の決勝戦に残っているのはそういうチームだなぁと感じます。
人を集められる私立ですら難しいのに、それを公立校が揃えるのはとてつもない難易度であることは容易に想像出来ます。
まとめ
延々と公立批判と私立推しのような内容を書いてきましたが、僕は公立出身ですし神奈川の公立校が甲子園に行ってほしいと切に願っています。
ただ私立は私立なりの意地とプライドを持って野球に取り組んでいることを知ったので、私立が強い理由が単純に環境面で優遇されているからだけではないということを書きたかったんです。
他県では公立校でも甲子園に出てくる学校があるし、最近では初出場の学校も増えてきました。
神奈川でも近いうちに公立旋風が起こることを期待しています。
もし公立校で野球をやっている子が身近にいる人がいたらぜひ言ってあげてください。
「自主練の量でしか私立に勝つ方法はない」と!
それではまた。
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